食料品の消費税が1%になったら、飲食店は「減税なのに資金繰りが悪化する」かもしれない話

※本記事は、2026年8月時点で議論されている「食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる案」を前提にした、仮のシミュレーションです。実際に制度化された内容ではありません。今後の制度設計次第で、ここで書いている内容は変わる可能性があります。


■ 減税のはずなのに、なぜ苦しくなるのか

「食料品の消費税が8%から1%に下がる」と聞くと、多くの方は「家計が助かる」「食品を扱う会社も楽になるはず」とイメージすると思います。

ところが、飲食店(特に店内飲食が中心のお店)にとっては、話が逆転する可能性があります。減税なのに、資金繰りが悪化するかもしれない、というお話です。

■ そもそも「外食」は軽減税率の対象外

ここが一番の盲点です。

現在の消費税の軽減税率(8%)は、「食品を売る」ことに対して適用されるルールです。スーパーで食材を買う、コンビニで弁当を買って持ち帰る、といった行為は対象になりますが、レストランやお店で「食べる」こと(外食)は、この軽減税率の対象外とされています。外食は今も昔も、標準税率(10%)のままです。

つまり、今回の「食料品8%→1%」という案が実現しても、

  • 飲食店がお客様から預かる消費税(売上にかかる分)は10%のまま変わらない
  • 飲食店が仕入れる食材にかかる消費税だけが1%に下がる

という、ねじれた状態が生まれます。

■ 具体例で見てみる

売上1億円、食材原価率40%(原価4,000万円)の飲食店で計算してみます。

現在(食材8%・その他標準税率10%)

  • お客様から預かる消費税:1億円×10%=1,000万円
  • 仕入れ等で支払った消費税:食材4,000万円×8%(320万円)+家賃・経費の消費税(290万円)=610万円
  • 納める消費税=1,000万円−610万円=390万円

改正後(食材のみ1%に)

  • お客様から預かる消費税:1,000万円(変わらず)
  • 仕入れ等で支払った消費税:食材4,000万円×1%(40万円)+家賃・経費の消費税(290万円)=330万円
  • 納める消費税=1,000万円−330万円=670万円

納税額が390万円から670万円に、280万円も増えます。 これは、売上側(外食)が減税の恩恵を受けられないのに、仕入れ側(食材)だけ税額控除が小さくなってしまうために起きる現象です。

■ まずはシンプルな話:「値下がりして見える280万円」は、あなたのお金ではない

多くの飲食店は「税込経理」という方法で帳簿をつけています。この場合、仕入先への支払い(税込の仕入高)は、税率が8%から1%に下がる分、目に見えて安くなります。先ほどの例で言えば、4,320万円→4,040万円と、280万円もはっきり値下がりして見えます。

ここで注意したいのは、この280万円は「得したお金」ではないということです。正体は、先ほど計算した「決算で多く納める280万円」と、実はぴったり一致します。つまり、この280万円は"あなたの利益"ではなく、"あとで国に納めるために、一時的に手元に残っているだけのお金"なのです。

これに気づかず、「原価が下がってラッキー」と従業員の賞与を増やしたり、設備投資に回したりして使い切ってしまうと、決算で納税資金が足りなくなります。まずはこのシンプルな構造を押さえておくことが第一歩です。

■ もっと怖いのは「隠れ値上げ」のケース

ここまでは、まだ「原価が下がって見える」という分かりやすいサインがある分、マシな方です。実はもっと怖いのは、仕入先が実質的に値上げをしているのに、それが税込の数字の上では見えなくなってしまうケースです。

税率が8%から1%に下がる分、税込の仕入高は本来、目に見えて安くなるはずです。ところが実際には、食材価格そのものが値上がりしていたり、仕入先が「税込価格を変えないように」本体価格を上げてくる——つまり、実質的な値上げをしてくることもよくあります。

もし仕入先が、消費税の下がった分とちょうど同じくらい本体価格を値上げしてきたら——実質的には値上げされているのに、税込の仕入高は1円も変わらないように見えてしまいます。まさに「隠れ値上げ」です。

試算表を見ても、売上も原価も去年と変わらない。むしろ月々の利益は普段通り、あるいは少し良く見えることさえあります。なぜなら、消費税の納税額(冒頭で計算した280万円の増加分)は、多くの場合、決算の時に1回でまとめて計上されるだけで、毎月の試算表には反映されないからです。

つまり、期中はずっと「順調」に見える数字が続き、決算のタイミングで初めて、まとまった追加の納税負担が判明する、という展開になり得ます。

■ こんな1年を想像してみてください

定食屋を営むAさんの場合で考えてみます。売上1億円、原価率40%、営業利益率1%という、まさに薄利多売のお店です。

4月、仕入先から「消費税率が下がったので、今月から本体価格を少し見直させていただきます」という連絡が届きます。値上げ幅は数%程度で、正直あまり気にも留めませんでした。

5月から12月にかけて、毎月の試算表を見ても、原価は例年とほとんど変わりません。むしろ「今年は調子がいいな」と感じる月もありました。夏には老朽化していた厨房設備を新調し、年末には従業員に少しだけボーナスも奮発しました。

そして翌年2月、決算のために税理士から試算表が届きます。そこには、前年より280万円も多い「租税公課」が計上されていました。

「なぜこんなに増えているんですか?」と尋ねたAさんに、税理士は仕入先の値上げと消費税率の変更が重なっていたことを説明します。しかし、手元にはすでに設備投資とボーナスに使ってしまった資金しか残っていませんでした。

■ 薄利多売の店ほど危ない

営業利益率が低い(薄利多売の)飲食店ほど、このリスクは深刻です。

先ほどの例で、年間利益がもともと100万円しかないお店だったとします。仕入先の値上げなども重なると、最終的な利益は100万円の黒字どころか、100万円を超える赤字に転落することもあり得ます。しかも、その赤字は決算まで誰も気づかないまま進みます。

普段からキャッシュに余裕がない薄利多売のお店にとって、決算で突然「想定より大きな納税額」が判明するのは、資金繰り上、かなり厳しい展開です。

■ どう備えればいいか

まだ実現していない案の話ではありますが、もし今後こうした制度変更が実際に検討される局面が来たら、次のような備えが有効だと思います。

  1. 原価率を毎月きちんとモニタリングする:税込の金額だけでなく、税抜ベースでの原価率の推移も定期的に確認する
  2. 税抜経理への切り替えを検討する:税抜経理であれば、消費税率が何%であっても、原価の実質的な変動がそのまま帳簿に表れます。今回のような「見えない変化」を防ぎやすくなります
  3. 消費税の納税準備を、毎月の売上から一定割合を目安に別口座で積み立てておく:決算時に慌てないための、シンプルですが効果的な対策です

■ おわりに

「減税=良いこと」というイメージが強い分、こうした逆説的なリスクは見落とされがちです。制度がどう決まるかはまだ分かりませんが、「税率が変わる=自社にとって単純にプラス」と決めつけず、一度自社の売上・仕入れの構造(食品か外食か、原価率はどれくらいか)を確認しておくことをおすすめします。

ご自身の事業がどちらのパターンに近いか気になる方は、お気軽にご相談ください。

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